道のただなかを歩み答えを模索し続ける

映画監督?脚本家 鶴岡 慧子さん

2025/03/06

立教卒業生のWork & Life

OVERVIEW

立教学院創立150周年を記念して制作された映画『道のただなか』。同作を手掛けたのは、若手実力派の映画監督として国内外で高い評価を集める鶴岡慧子さん。本学の卒業生である鶴岡さんに、立教時代の思い出や『道のただなか』に込めた思いを伺いました。

問い続け、考え続ける姿勢が映画を生み出す

映画制作に正解はない—。立教時代に得た一番の学びは、理論やテクニックの先にある、映画人として必要不可欠な姿勢でした。人間の複雑さを追究し、映画に描き出すという営みは、私もその実態をいまだにつかめていません。それでも問い続け、考え続けることが、映画に携わる者に課せられた使命なのだと考えています。

小学生の頃から映画に夢中だった私は、映画監督になる夢を胸に現代心理学部映像身体学科へ入学。中でも印象的だったのは1年次に受講した万田邦敏先生(元教授)のワークショップです。数人のチームで短編映画を制作する授業で、映画の基礎も分からないまま演出や脚本に挑戦しました。万田先生は私が演出したシーンに対して「ひどいね」と一言(笑)。チーム全体への評価は高かったため、うれしい反面とても悔しく、「もっと良いものを作りたい!」と情熱が芽生えました。

万田先生は、私が映画監督として歩み始める際に大きな支えとなってくださった恩人でもあります。卒業制作の『くじらのまち』は、途中でプロットを変更したこともあり、自分でも最適解が見いだせず、もがきながら撮影?編集した作品でした。恐る恐る提出したところ、万田先生から「一緒に編集をブラッシュアップしよう」と声をかけてくださり、「PFFには応募しなよ」と背中を押してもらったのです。「私の作品を認めてくれているんだ」と、心からうれしくなった瞬間でした。

大学卒業後は東京藝術大学大学院に進学し、立教出身の黒沢清先生(1980年社会学部卒業)のゼミに参加。「映画作りのメソッドなんて、あるのかどうかも分からない」と常々言われ、万田先生の教えと共通するものを感じながら、自分なりの映画作りを模索していきました。


※PFF:ぴあフィルムフェスティバル。自主映画のコンペティション。

『道のただなか』に込めた平和への願い

記念映画『道のただなか』は、創立者ウィリアムズ主教の生涯を題材に構想した物語です。脚本執筆時には西原廉太総長から聖公会の「Via Media(中道)」という考え方について教えていただきました。私たちは道のただなかにいて、安易にどちら側にも寄らず、解釈し続けることが大切だと。映像身体学科で学んだ、安易に答えを出さずに考え続ける姿勢とも重なって共感しましたし、立教での経験が映画人としての自分を支えていることを強く実感しました。

ウィリアムズ主教は、世の中を平和にするという使命の下、キリスト教徒としての正しさを貫いた人です。彼の教えを受け継いできた立教もまた、「Via Media」を重んじながら、戦争のような絶対的に間違っていることには「NO」と言える強さを持っています。私もそのメッセージを、映画を通じて多くの人へ届けたいと思いました。ウィリアムズ主教の足跡を追う主人公の姿を丁寧に描き、立教の軸でもある、物事の中道を探る姿勢や平和を求める心を表現しました。

今後の目標は、いつまでも映画を撮り続けること。それに尽きます。たくさんの作品を手掛けたいというわけではなく、映画を撮ることに長く携わっていたいと思っています。これからも伸び伸びと楽しく、スタッフそれぞれのクリエイティビティを融合させながら、映画作りに励んでいきます。

立教学院創立150周年記念映画『道のただなか』

鶴岡慧子さんが監督?脚本を務め、メインキャストには渡邉甚平さん(2022年経済学部卒業)ら3人の卒業生、さらに現役生たちも出演。「オール立教」で制作した青春ロードムービーです。創立150周年記念サイトで全4話が公開中です。

Story
立教大学の映画サークルで活動する慎平が、先輩から手渡された1冊のリーフレットには、立教の創立者ウィリアムズ主教の生涯が書かれていた。
明け方、泣きながら読み終えた慎平は、突如として旅に出る—。
ウィリアムズ主教の大いなる慈愛と熱情を、時にユーモラスなエピソードを織り交ぜながら描き、今を生きる若者の心の変容を映し出します。

主演の渡邉甚平さんと

出演の中川友香さん、現役立教生キャスト、撮影クルー、エキストラの皆さんと

長崎聖三一教会の牛島幹夫司祭、渡邉甚平さんと、ウィリアムズ主教の肖像画前で

プロフィール

PROFILE

鶴岡 慧子

映画監督?脚本家
2012年 現代心理学部映像身体学科卒業

現代心理学部映像身体学科で万田邦敏監督に師事。卒業制作『くじらのまち』(2012年)が第34回ぴあフィルムフェスティバルグランプリとジェムストーン賞(日活賞)をW受賞。大学卒業後、東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻に進学し、黒沢清監督に師事。PFFスカラシップ作品『過ぐる日のやまねこ』(2014年)で劇場デビュー。同作は第15回マラケシュ国際映画祭で審査員賞を受賞。2023年、『バカ塗りの娘』で第74回芸術選奨文部科学大臣新人賞などを受賞。

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